治療と仕事の両立支援——2026年4月の努力義務化で、会社に求められること

2026.07.15
コラム

治療しながら働く社員への対応が、努力義務に

がんと診断された社員から、治療をしながら働き続けたい、と相談された。持病の悪化で入退院を繰り返す社員がいて、どこまで配慮すればいいのか分からない。こうした場面は、どの会社にも起こりえます。

これまで、治療と仕事の両立支援は、厚生労働省のガイドラインに基づく任意の取り組みでした。それが、改正労働施策総合推進法(令和7年法律第63号)により、2026年4月から事業主の努力義務(同法第27条の3)として法律に位置づけられました。あわせて、法的根拠を持つ「治療と就業の両立支援指針」(令和8年厚生労働省告示第28号)が示され、同じく2026年4月1日から適用されています。労働者から申出があった場合、事業主は治療の状況に応じた就業上の配慮を行うよう努めなければならない、とされています。

努力義務であり、罰則はありませんが、法律に明記された意味は小さくありません。この記事では、制度の概要と、中小企業を含めた現実的な対応を整理します。なお、両立支援に関する助成金や、傷病手当金など本人の所得保障には、ここでは触れません。

対象疾患の広がり—メンタルヘルス疾患も含まれる

今回の指針で押さえておきたいのが、対象疾患の考え方が大きく変わったことです。

従来のガイドラインは、がん、脳血管疾患、心疾患、糖尿病、肝炎、難病といった疾患を例示し、主に身体疾患を念頭に置いた内容でした。これに対し、新しい指針では、対象を疾患名で限定せず、「医師の診断により、増悪の防止のため反復・継続して治療が必要と判断され、かつ、就業継続に配慮が必要なもの」と定義しました。

この定義に当てはまれば、疾患の種類を問いません。つまり、うつ病や双極性障害などの精神疾患も、継続的な治療と就業上の配慮が必要であれば、両立支援の対象に含まれます。対象者も、雇用形態を問わずすべての労働者とされています。

メンタルヘルス疾患は、まさに反復・継続して治療が必要で、就業継続に配慮が必要という定義の中心に位置する疾患群です。私もクリニックでの診療で、通院を続けながら働く、調子の波と付き合いながら働く、そういった患者さんと多く接しています。メンタルヘルス疾患を持つ方を支える枠組みができたことは、非常に重要なことだと感じています。

両立支援が法制化された背景

背景には、働く現場の変化があります。医療の進歩により、がんをはじめ多くの病気は、治療を続けながら長く付き合うものに変わりました。働く人の3人に1人が何らかの病気を抱えながら働いているとも言われ、治療と仕事の両立は、多くの方々にとって身近な問題です。

それでも、診断を機に慌てて仕事を辞めてしまうケースがあります。少子高齢化で人手不足が続く中、経験のある社員の離職は、本人の生活だけでなく、会社の戦力という面でも痛手です。加えて、任意の取り組みだったこれまでは企業ごとの対応差が大きく、特に中小企業では支援体制づくりが進みにくいことが指摘されていました。この差を埋めるために法的な位置づけを与えたのが、今回の改正です。

努力義務化で何が変わるのか

2026年4月施行の改正法と指針のポイントは、次の通りです。

まずは労働者からの申出がスタート。 両立支援は、労働者本人が事業主に申し出ることから始まります。事業主が主体ではなく、本人の意思を尊重する仕組みです。

事業主は、申出に応じて就業上の配慮を行うよう努める。 具体的には、通院のための勤務時間の調整、業務内容の変更、短時間勤務、在宅勤務の活用などが想定されています。

主治医・産業医との連携が支援の中心になる。 本人が主治医から就業に関する意見をもらう際、事業主は勤務情報提供書(本人の業務内容や勤務状況を主治医に伝える書面)の作成を支援します。主治医から得られた情報をもとに、産業医等の意見を聴き、就業継続の可否や配慮の内容を判断する、という流れです。指針では、取り扱いに注意が必要な健康情報を扱うため、主治医とのやり取りは産業医を通じて行うことが望ましいと明記されています(ただし、産業医が主治医と情報交換を行う際は、事前に労働者本人の同意を得ることが必要です)。

実務の流れ—5つのステップ

実際の対応は、おおむね次の流れになります。

① 本人からの申出を受ける。 申出をしやすくするため、相談窓口や手続きの方法を日頃から周知しておきます。

② 勤務情報を主治医に提供する。 本人の業務内容、勤務時間、作業環境などをまとめた勤務情報提供書を本人経由で主治医に渡し、就業に関する意見を求めます。

③ 主治医の意見を受け取り、産業医の意見を聴く。 主治医からの情報を産業医にも共有し、就業継続の可否、必要な措置、治療への配慮について意見を聴きます。

④ 就業上の措置を決定し、両立支援プランを作成する。 主治医と産業医の意見を踏まえ、勤務時間の調整、業務の変更などの配慮内容とスケジュールを決めます。計画は本人とよく話し合い、無理のないものにします。

⑤ 経過を確認し、状況に応じて見直す。 治療の経過によって、体調や働ける範囲は変わります。定期的に状況を確認し、措置を見直していきます。

中小企業の現実的な対応

人員に余裕のない中小企業では、配置転換や業務軽減の選択肢が限られますが、その中でできることを考えてみましょう。

申出を受け止める窓口と体制を作っておく。 まずは、病気のことを話しても不利益に扱われない、という安心感です。診察室では、自身の病気や状態について会社にどう伝えるか悩んでいる患者さんに多く出会います。申出の前の段階でつまずく人を減らすこと自体が、支援の一部です。就業規則や社内通知で両立支援の相談先を明示しておくだけでも、社員は申し出やすくなります。

勤務情報提供書の様式を準備しておく。 厚生労働省が指針とあわせて様式例を公開しています。いざという時に困らないよう、様式と手続きの流れを確認しておきます。

柔軟な働き方の制度を確認しておく。 指針では、時間単位の年次有給休暇、傷病休暇、時差出勤、短時間勤務、在宅勤務、試し出勤(主に休職からの復職時に活用)といった制度の導入が望ましいとされています。すべてを揃える必要はありませんが、自社で導入可能なものから検討しておくと、実際の申出に対応しやすくなります。

相談できる医師を確保しておく。 主治医の意見を実際の勤務にどう反映するかを判断する場面では、産業医の関与が有効です。50人未満で産業医がいない場合は、地域産業保健センター(堺市の事業場なら堺地域産業保健センターが窓口です)の活用や、スポットで相談できる医師の確保が現実的な選択肢になります。

おわりに

治療と仕事の両立支援は、特別な制度を新たに作るというより、病気になった社員が辞めずに働き続けられる環境づくりを、自社の実態に応じてあらかじめ準備しておくことです。対象がメンタルヘルス疾患を含めて広く定義されたことで、メンタル不調の社員への休職・復職対応とも地続きの制度になりました。

両立支援も、ややもすれば規程と様式を整えて終わりになりがちです。実際に申出があったときに動ける流れまで作っておくと、その後の対応がスムーズになります。2026年4月の努力義務化を、ぜひ自社の体制を見直すきっかけにしてください。

参照: 改正労働施策総合推進法(令和7年法律第63号。両立支援の努力義務は第27条の3)/「治療と就業の両立支援指針」(令和8年厚生労働省告示第28号、2026年4月1日適用)/ 治療と仕事の両立支援ナビ/ 治療と仕事の両立について(厚生労働省)

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