「うちの場合はどうしたら?」を
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当社は、形式だけで終わらせず、運用できる形にすることを大切にしています。
選任・顧問のご相談も、49人以下向けの「ちょこっと産業医」も、まずは状況を伺うところから。お気軽にお問い合わせください。
「うちは従業員30人くらいだから、産業医は関係ない」
そう思っている経営者や総務担当の方は多いのではないでしょうか。確かに、労働安全衛生法上、産業医の選任が義務づけられるのは常時50人以上の労働者を使用する事業場です(労働安全衛生法第13条)。50人未満であれば、選任しなくても法律違反にはなりません。
しかし、ここで一度立ち止まって考えてほしい事実があります。
日本で働く人の半数が、産業医のいない「50人未満の小規模事業場」で働いているのをご存じでしょうか。そして近年、精神障害による労災認定件数は過去最多を更新し続けています。小規模事業場こそ、メンタルヘルスの問題がもっとも放置されやすい「空白地帯」になっているのが実情です。
この記事では、50人未満の事業場が直面しているリスクを、公的データをもとに整理した上で、現実的に取りうる対策の選択肢を解説します。
総務省・経済産業省が公表している「令和3年経済センサス‐活動調査」によると、全事業場の約95.9%が50人未満の小規模事業場であり、50人未満の事業場で働く労働者は全体の半数以上を占めています。
つまり、「産業医がいる職場」で働いている人のほうが、実は少数派なのです。
そして、小規模事業場では産業医だけでなく、衛生管理者、衛生委員会、ストレスチェックといった法定のメンタルヘルス対策の仕組みも整っていないのが一般的です。メンタルヘルス対策の仕組みを持たない事業場が、日本の労働環境の大多数を占めている——これが日本の現実です。
もう一つ、押さえておくべきデータがあります。
厚生労働省が毎年公表している「過労死等の労災補償状況」によれば、仕事が原因で精神障害を発症したとして労災認定を受けた件数は、令和6年度(2024年度)に1,055件に達しました。これは統計開始以来初めて1,000件を超えた数字であり、過去最多を更新し続けています。
労災請求件数(申請件数)はさらに多く、令和6年度で3,780件。つまり、1年間に約3,800人が「仕事が原因で精神障害を発症した」として労災申請をしているという計算になります。
支給決定件数の推移を見ても、令和2年度の608件から令和6年度の1,055件まで、わずか4年で約1.7倍に増加しています。
そして、精神障害の労災認定の主な原因として最も多く挙げられているのが「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」(令和6年度:224件)です。パワハラに次いで「仕事内容・仕事量の大きな変化」(119件)、「顧客や取引先等から著しい迷惑行為(カスハラ)」(108件)と続きます。
これらは、事業場の規模に関係なく、どの職場でも起こりうる問題です。むしろ、組織が小さく距離が近い小規模事業場のほうが、パワハラの境界線が曖昧になりやすく、問題が表面化しにくいという側面すらあります。
では、小規模事業場ではどの程度のメンタルヘルス対策が実施されているのでしょうか。
厚生労働省の調査によれば、ストレスチェックを実施している事業場の割合は、50人以上の事業場で81.7%であるのに対し、50人未満の事業場ではわずか34.6%にとどまっています。
50人以上の事業場ではストレスチェックが法的義務であるのに対し、50人未満では現時点では努力義務にとどまっているため、実施率に大きな差が生じています。
しかし、メンタルヘルスの問題そのものは事業場規模によって発生率が下がるわけではありません。むしろ、一人の社員がメンタル不調で休職した場合の組織への打撃は、小規模事業場のほうが圧倒的に深刻です。「仕組みで守られていない」ことと、「リスクが低い」ことは、まったく別の話です。
50人未満の事業場には産業医の選任義務はありませんが、以下のような義務が存在します。
定期健康診断の実施は、従業員が1人でもいれば事業者の義務です(労働安全衛生法第66条第1項)。そして、健康診断で異常所見が出た社員については、3ヶ月以内に医師の意見を聴取する義務があります(同法第66条の4、労働安全衛生規則第51条の2)。
この「医師の意見聴取」は、産業医がいない小規模事業場でも行わなければなりません。しかし実際には、「誰にこの意見を聴けばいいのか」で止まってしまい、健診結果を社員に渡すだけで終わっているケースが少なくありません。
時間外・休日労働が月80時間を超え、疲労の蓄積が認められる労働者が申し出た場合、医師による面接指導を行う義務は、事業場の規模に関係なく発生します(労働安全衛生法第66条の8)。
そして最も重要なのが、安全配慮義務です(労働契約法第5条)。「労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をしなければならない」——この義務は、従業員が何人であっても適用されます。
社員がメンタルヘルス不調で休職し、後に「会社は何も対策を取っていなかった」と主張された場合、安全配慮義務違反として損害賠償を請求されるリスクがあります。「50人未満だから仕方ない」は、法的には通用しない場面があるのです。
参照条文: 労働安全衛生法第66条、第66条の4、第66条の8、労働契約法第5条
さらに押さえておくべきは、制度の方向性です。
2025年5月に改正労働安全衛生法が成立し、これまで努力義務だった50人未満の事業場に対するストレスチェック実施も義務化されることが決定しています。施行は公布から3年以内(最長で2028年5月頃)とされています。
国が50人未満の事業場にまで対策範囲を広げようとしている背景には、ここまで見てきたデータがあります。働く人の半数以上がいる小規模事業場で、精神障害の労災認定が増え続けており、そこにメンタルヘルス対策の仕組みがほとんど存在しない——この「空白」を埋めなければ、労働者全体の健康は守れないという判断です。
義務化のタイミングで慌てるよりも、今のうちから相談できる医師との関係を築いておくほうが、結果的にスムーズな移行につながります。
ここからは、実際の現場で「産業医がいればよかった」と感じる典型的な場面を挙げます。
健診結果に異常所見が出た社員がいる。会社として何をすべきか。残業を制限すべきか。本人に受診を強制できるのか。こうした判断は、医学的な知見がなければ難しい。しかし、主治医は一般的な医学的判断は可能ですが、「職場でどう対応するか」の判断は難しい場合が多いです。
ある朝、社員から「体調が悪いのでしばらくお休みをいただきたい」とLINEが届いた。診断書には「適応障害」。休職の手続きは? 休職中の連絡は? 復職はどう判断すれば?——経営者が判断を迫られます。
主治医から「復職可能」の診断書が出た。でも、本当にうちの業務に耐えられるのか。どのような配慮が必要なのか。主治医の「復職可能」は「日常生活が送れる」という意味であることが多く、「会社の業務を十分に遂行できる」という保証ではありません。この判断は、職場の業務内容を理解した上で判断する必要があります。
月80時間を超える残業をしている社員がいる。面接指導が必要だとはわかっているが、どの医師に依頼すればいいのかわからない。
ハラスメントの訴えがあり、当事者がメンタル不調を訴えている。法的対応は弁護士や社労士に相談できるが、「この社員のメンタルヘルスは大丈夫か」「就業上の配慮が必要か」といった医学的判断は、医師でなければ行えません。
これらの場面に共通するのは、「医学的な見立てや判断が必要だが、相談できる医師がいない」という構造です。そして前述の労災統計が示すように、こうした場面への対応を誤ると、最終的には労災申請や損害賠償請求に発展するリスクを抱えることになります。
「でも、産業医と契約する余裕がない」——その感覚は当然です。しかし、選択肢は「産業医と契約するか、何もしないか」の二択ではありません。
50人未満の事業場を対象に、医師による面接指導や健康相談を無料で提供している公的機関です。健診の事後措置や長時間労働者の面接指導にも対応しています。
コストゼロで利用できる最初の一歩として、すべての小規模事業場がまず把握しておくべきリソースです。ただし、予約が取りにくい、対応する医師が毎回異なる、休職・復職の継続フォローには向かない——など、利用回数や支援内容に一定の制限があります。
普段は契約を結ばず、必要が生じた時だけ産業医に依頼する形態です。「復職判定をしてほしい」「健診の事後措置について意見がほしい」など、ピンポイントで専門家の判断が必要な場面に向いています。
月額の固定費がかからないため、「今すぐフルの産業医契約は難しいが、いざという時に頼れる先は確保しておきたい」という段階の事業場に合った選択肢です。
訪問なし、チャット・メール・Web会議だけで相談できるサービスもあります。「ちょっとした疑問をすぐ聞きたい」「事が大きくなる前に方向性だけ確認したい」——月額コストを抑えながら「いつでも聞ける専門家」を確保できます。
会社の規模や対応範囲を絞ることで、月額数万円程度から顧問契約を結べるサービスも増えています。訪問頻度を隔月にする、面談はオンライン中心にするなど、事業場の実情に合わせた柔軟な契約が可能になってきています。
判断に迷った時に、医学的な根拠に基づいて一緒に考えてくれる相手がいるだけで、経営者・総務人事担当者の心理的な負担は大幅に軽くなります。
メンタルヘルスの問題は初動の速さで展開が変わります。「様子がおかしい」と思った際、すぐに電話やチャットで相談できる体制があれば、休職を未然に防いだり、問題の芽を早期に摘んだりすることができます。50人未満の事業場では、一人の長期休職が業務全体に与える影響が甚大です。「予防」と「早期対応」に投資する意味は、大企業以上に大きいと言えます。
産業医に相談し、その助言に基づいて対応した——という記録は、万が一の労災申請や損害賠償請求の場面で、「会社として適切な対応を行っていた」ことの証拠になります。
前述の通り、精神障害の労災認定は年々増加しています。令和6年度の精神障害の支給決定件数1,055件という数字は、事業場の規模と無関係に発生しうるリスクです。産業医への相談は「コスト」ではなく、「将来のリスクに対する保険」として捉えるほうが実態に即しています。
「当社は50人未満ですが、産業医と連携してメンタルヘルスケア体制を整えています」——この一文を求人票に載せられることの意味は、年々大きくなっています。特にIT系人材や若手世代は、心身の健康に対する企業の姿勢を就職先選びの判断材料にしています。
ここまで読んで、「うちにも何か対策が必要なのはわかったが、いきなり本格的な産業医契約は難しい」と感じた方もいるかもしれません。
その感覚は正しいです。大切なのは、完璧な体制を一気に構築することではなく、「今、一番困っていること」に対して、まず一歩を踏み出すことです。
たとえば、こんな始め方があります。
こうした「必要な時に、必要な分だけ」の利用から始めて、事業場の成長に合わせて体制を拡充していく。それが、小規模事業場にとって最も現実的で、最もコストパフォーマンスの良いアプローチです。
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 選任義務 | 50人未満の事業場には産業医の選任義務はない |
| 日本の労働環境 | 働く人の半数が50人未満の事業場で働いている |
| メンタルヘルスの現実 | 精神障害の労災認定は令和6年度に1,055件と過去最多 |
| 小規模事業場の現状 | ストレスチェック実施率は32.3%にとどまる |
| 規模を問わない義務 | 健診事後措置・長時間労働面接・安全配慮義務は全事業場に適用 |
| 今後の動き | ストレスチェックの義務拡大(2028年頃までに施行予定) |
| 使える選択肢 | 地さんぽ、スポット契約、オンライン相談、顧問契約 |
日本の労働環境の大半を占める小規模事業場で、メンタルヘルス対策の仕組みがほとんど整備されていない——これが現在の「空白地帯」です。国もこの空白を埋めるべく法改正を進めていますが、義務化を待つまでもなく、リスクは今この瞬間も存在しています。
義務がない「今のうちに」備えておくことが、結果的に最もコストの低い、そして最も効果の高い選択になるはずです。
合同会社こころデザイン研究所は、堺市を拠点に、大阪市・南大阪エリアを中心とした産業保健サービスを提供しています。代表は精神科専門医・精神保健指定医の資格を持つ産業医であり、「不調になってから病院に来るのではなく、その手前の職場でできることがあるはず」という考えのもと、予防医療と職場のメンタルヘルス対応の仕組み化を中心に活動しています。
49人以下の事業場向けに「ちょこっと産業医」というサービスを用意しており、スポットでの相談やオンライン対応にも対応しています。
こうした「ちょっとした困りごと」から、精神科専門医・産業医が直接ご相談に応じます。形式だけで終わらせず、運用できる形にすることを大切にしています。
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医師/精神科専門医/精神保健指定医/産業医。2008年より精神科医として臨床・研究経験を重ね、2016年より産業医活動を開始。2022年に合同会社こころデザイン研究所を設立。堺市・大阪市を中心に、産業医サービス、健診後対応、メンタルヘルス支援、休職・復職支援などに取り組んでいます。