産業医は何人以上で必要?50人の基準と「常時使用」の考え方をわかりやすく解説

2026.04.07
コラム

「うちの会社、そろそろ産業医を選ばないといけないの?」

従業員が増えてくると、総務や経営者の方からこうしたご相談をいただくことがあります。結論から言うと、常時使用する労働者が50人以上になった事業場は、産業医を選任する法的義務があります(労働安全衛生法第13条)。

ただ、「50人」の数え方は意外と複雑で、正社員だけで数えればいいのか、パートやアルバイトは含むのか、本社と支店は合算するのか——迷うポイントがいくつもあります。

この記事では、「産業医は何人以上から必要なのか」という基本的な疑問に対して、法令の根拠を示しながら、実務上の判断ポイントをわかりやすく解説します。

なお、小規模事業場で何をすべきかについては、「50人未満でも産業医は必要?小規模事業場こそ知っておきたい、メンタルヘルスのリスクと相談の選択肢」で詳しく解説しています。

産業医の選任が必要になるのは「常時50人以上」の事業場

法律上の根拠

労働安全衛生法第13条および同施行令第5条により、常時50人以上の労働者を使用する事業場は、産業医を選任しなければなりません。

この義務はすべての業種に適用されます。製造業やIT企業、サービス業、小売業など、業種による例外はありません。

50人以上999人以下の事業場であれば、原則として嘱託(非常勤)の産業医を1名選任すれば足ります。常勤の産業医が必要になるのは、1,000人以上の事業場や、一定の有害業務を行う500人以上の事業場に限られます。

選任の期限と届出

産業医は、選任すべき事由が発生した日(=労働者数が50人に達した日)から14日以内に選任し、遅滞なく所轄の労働基準監督署へ「産業医選任報告書」を提出する義務があります(労働安全衛生規則第13条第1項、労働安全衛生法第100条)。

選任義務を怠った場合は、50万円以下の罰金が科される可能性があります(労働安全衛生法第120条第1号)。

参照条文: 労働安全衛生法第13条、同施行令第5条、同規則第13条

「50人」はどう数える?——よくある疑問と回答

「事業場」単位で数える(会社全体ではない)

50人のカウントは、会社全体の従業員数ではなく、「事業場」ごとに行います。

事業場とは、原則として同一の場所で継続的に事業活動が行われている単位です。本社と工場が別の場所にある場合は、それぞれが独立した事業場として扱われます。

たとえば、会社全体では従業員80人でも、本社に40人、工場に40人であれば、どちらの事業場も50人未満です。この場合、産業医の選任義務は発生しません。

逆に、一つのオフィスに全員が勤務していれば、そのオフィスの人数が50人を超えた時点で義務が生じます。

参照: 厚生労働省「労働安全衛生法の施行について」(昭和47年9月18日付け基発第602号)

パート・アルバイトも含まれる

「常時使用する労働者」には、正社員だけでなくパートタイマー、アルバイト、契約社員も含まれます。勤務時間の長短や、契約期間の有無は問いません。日雇いのような臨時的な雇用を除き、常態として使用している労働者はすべてカウント対象です。

派遣社員はどう扱う?

派遣社員は、派遣先の事業場の労働者数にカウントされます

たとえば、正社員が42人の事業場で、派遣社員が10人常駐していれば、常時使用する労働者は52人。産業医の選任義務が発生します。

ただし、派遣社員の健康診断のうち、一般的な定期健康診断の実施義務は派遣元にあります(深夜労働や有害業務を行う際の特殊健康診断のみ派遣先の責任となります)。「人数には数えるが、健診は派遣元の責任」という点で、少しややこしい仕組みです。

出向者の場合

出向者は、出向先の事業場の指揮命令下で業務を行う場合、出向先の労働者としてカウントされるのが一般的です。在籍出向か移籍出向かによっても扱いが異なる場合がありますので、判断に迷う場合は所轄の労働基準監督署に確認されることをお勧めします。

50人未満の事業場には義務がない?——「努力義務」と安全配慮義務

50人未満でも「何もしなくていい」わけではない

常時使用する労働者が50人未満の事業場には、産業医の選任義務はありません。ストレスチェックの実施も、現時点では努力義務にとどまっています。

ただし、これは「従業員の健康管理をしなくていい」という意味ではありません。

労働契約法第5条は、企業規模に関係なく、すべての事業者に安全配慮義務を課しています。従業員の安全と健康を確保するための配慮を怠り、メンタルヘルス不調や過労による健康被害が発生した場合、損害賠償責任を問われるリスクがあります。

50人未満でも使える公的支援

産業医の選任義務がない事業場でも、地域産業保健センター(通称「地さんぽ」)を無料で利用することができます。健康診断後の医師の意見聴取、長時間労働者への面接指導、メンタルヘルスに関する相談などに対応しています。

参照: 独立行政法人 労働者健康安全機構「地域窓口(地域産業保健センター)」

ストレスチェックの義務拡大(2028年までに施行予定)

2025年5月に改正労働安全衛生法が成立し、これまで努力義務だった50人未満の事業場に対するストレスチェックの実施も、今後は義務化されることが決定しています。施行は公布から3年以内(最長で2028年5月頃)とされています。

50人未満の事業場であっても、将来の義務化を見据えた体制整備を始めておくことが賢明です。

参照: 「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律」(令和7年5月14日公布)

50人を超えると産業医以外にも義務が増える

産業医の選任だけでなく、50人以上の事業場には以下の義務も同時に発生します。すべて14日以内の対応が求められるため、「50人に達してから慌てる」のでは間に合いません。

義務法的根拠対応期限
産業医の選任労働安全衛生法第13条14日以内
衛生管理者の選任同法第12条14日以内
衛生委員会の設置同法第18条速やかに
ストレスチェックの実施同法第66条の10年1回以上
定期健康診断結果報告書の提出同規則第52条遅滞なく

衛生管理者は国家資格(第一種または第二種衛生管理者免許)が必要で、受験準備に1〜3ヶ月かかります。従業員数が40人台に入った段階から、候補者の選定と受験準備を進めておくことをお勧めします。

参照: 厚生労働省 東京労働局「総括安全衛生管理者、安全管理者、衛生管理者、産業医のあらまし」

よくある質問

Q. 一時的に50人を超えた場合も選任が必要ですか?

「常時使用する」の判断は、一時的な増減ではなく、常態として50人以上を使用しているかどうかで判断されます。繁忙期だけ一時的にアルバイトを増員して50人を超え、通常は40人台であれば、原則として選任義務は生じません。ただし、判断に迷う場合は労基署に相談されることをお勧めします。

Q. 産業医はどこで探せばいいですか?

一般的な探し方としては、地域の医師会への問い合わせ、産業医紹介サービスの利用、健診機関への相談などがあります。選任にあたっては、自社の業種や課題(メンタルヘルス対応が多い、化学物質を扱うなど)に合った専門性を持つ医師を選ぶことが重要です。

Q. 産業医には何をしてもらえるのですか?

産業医の主な職務には、健康診断の結果に基づく就業上の措置に関する意見、長時間労働者への面接指導、ストレスチェック後の面接指導、衛生委員会への出席、職場巡視などがあります(労働安全衛生規則第14条)。特にメンタルヘルス不調の社員が出た場合や、休職・復職の判断が必要な場面では、精神科の知見を持つ産業医の存在が大きな支えになります。

まとめ

産業医の選任義務は、常時50人以上の労働者を使用する事業場に対して、業種を問わず発生します。50人の数え方は「事業場単位」で、パート・アルバイト・派遣社員を含みます。

50人に達してから14日以内に選任届出を完了する必要がありますが、産業医の確保、衛生管理者の資格取得、衛生委員会の設計など、準備には時間がかかります。40人台のうちから情報収集と準備を始めておくことが、最も確実な対応です。

50人未満の事業場であっても、安全配慮義務は企業規模に関係なく存在します。地さんぽの活用や、将来のストレスチェック義務化への備えも含め、「義務がないからやらない」ではなく、「できることから始めておく」姿勢が、社員の健康と会社のリスク管理の両面で重要です。

50人未満の事業場で何から始めればよいかについては、関連記事「50人未満でも産業医は必要?小規模事業場こそ知っておきたい、メンタルヘルスのリスクと相談先の選択肢」をご覧ください。


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合同会社こころデザイン研究所は、堺市を拠点に、大阪市・南大阪を中心とした産業医サービスを提供しています。

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監修・執筆者情報
竹村 有由

医師/精神科専門医/精神保健指定医/産業医。2008年より精神科医として臨床・研究経験を重ね、2016年より産業医活動を開始。2022年に合同会社こころデザイン研究所を設立。堺市・大阪市を中心に、産業医サービス、健診後対応、メンタルヘルス支援、休職・復職支援などに取り組んでいます。

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